Heroes of the Stormをプレイしたことのある日本人ゲーマーは数少ないんじゃないかと思う。少なくともリーグ・オブ・レジェンズと比べて。日本人だと熱心なWoWプレイヤーは少ないかもしれないが、Diablo3、またオーバーウォッチやハースストーンをプレイしたことならあるという人は多く居ると思う。とりあえず、私の観測範囲内のインターネットにおいてはそのような人口分布となっている。
さて、HotSの開発規模縮小のニュースが激震を走らせたのは12月も中頃のことだ。Diabloモバイルに関して一荒れしてすぐの話で、HotSの開発スタッフを未発表ゲームに回すと言われても疑惑の眼差しを向けることしか出来なかった。
https://www.gamespark.jp/article/2018/12/14/86071.html
開発規模縮小に加えて、公式大会も中止になった。これらの意味するところはHotSはEスポーツとしては”失敗”に終わったという事だ。そしてそれをBLIZZARDが認めたということでもある。
HotSの世界大会の決勝よりTCSの方が視聴者数が多かったって話もある。
https://lolninja.net/2018/11/27/post-7907/
TCSはただの配信者が配信者を集めたお遊びの大会でしかないのに(優勝賞金が5万ドルもあるのにお遊びと言ってしまうのは暴論なんだけども)、それ以下の視聴者しか集められないってことは、Eスポーツとして失敗したって見方はある種正解ではあるだろう。
Eスポーツとして成功するかどうかとユーザー体験がどれほど結びつくものかは分からないけど、やっぱり面白いゲームの方が人口も多くなるし、人口が多ければそのゲームのEスポーツ市場も活発になるのは間違いないと思う。だから今回の記事ではHotSがなぜEスポーツとして失敗したのか、ユーザー目線で個人的な見解を(主にLoLと比べて)述べていく。
HotSはとても気楽なゲームである。嘘だ。だって日本語化されていないのだから。殆どのユーザーは「日本語に公式対応しておりません」の文字列を目にした瞬間に「じゃあいいです」となるだろう。気楽に始められるゲームではない。幸いにも熱心なユーザーによって日本語wikiがこまめに更新されており(ありがたい限りだ)、英語が読めなくてもスキルの詳細等を確認することは可能であるが。
HotSはとても気楽なゲームである。なんたってアイテムが存在しないし、つまりお金もないのでラストヒットを取る必要もない。味方のタワーが相手のミニオンを焼くのを近くで見ているだけで経験値は入る。さらにLoLでいうルーンもない。あるのは一定レベルごとに習得するタレントと呼ばれるスキルの強化だけだ。だからゲームをプレイするにあたって覚えなきゃいけない知識、テクニックのハードルがものすごく低い。
数値の上昇か、挙動の変化か
スキルやタレントに関してもう少し詳細を記述する。HotSではアルティメット以外のQWEスキルは最初から全部使用可能で、スキルのレベルアップもなく、タレントでスキルの使用感に変化をつけていくというスタイルだ。1レベルのタレントが例えばこう
- Qの射程が増加
- Wの範囲が増加
- マナ回復量が増加
この中からどれか一つを選ぶ。そして次は4レベルで例えばこう
- Qが貫通するようになる
- Eを当てた敵にデバフ
- 攻撃してきた相手にスローを与えるパッシブ(クールダウンあり)
そして10レベルになると全ヒーローがアルティメットを習得するが、それも2種類の内からどちらか選び習得するシステムになっている。選ばなかった方はその試合中使うことが出来ない。
- 強力な範囲攻撃
- 召喚獣
上記はJaina(ハースストーンプレイヤーのみなさん、あのジェイナです。)を参考に少し改変した例であるが、先述した使用感の変化というのが伝わるだろうか。LoLでスキルレベルを上げてもダメージやCC効果時間が少しづつ上昇するだけだが、HotSのタレントはスキルの挙動に変化が加わったり、新たなパッシブやアクティブを習得したりといったものが多い。「このタレントを取ると明らかに使いやすい」となるのでより直感的だ。LoLは買うアイテムが毎回固定されがちだから、それに比べるとHotSはどのタレントを取るのか毎試合楽しみだ。一つのスキルを強化し続けて射程も範囲も伸ばすのも面白いし、相手のヒーローを見て自衛力を高めるのも大切。ステータスの上昇じゃなくてスキルの性質が変わっていくところが視覚的にも分かりやすくて面白い。
経験値について
HotSはアイテムがないのでレベルと経験値が全てだ。経験値はミニオン処理やオブジェクト破壊など、要は試合を進めようとしたら経験値はどんどん入ってくる。一方的にタワーを破壊されたらそれで経験値に差がついて、レベルに差がついていくというわけだ。重要な点として、経験値はチームで共有で全員同じレベルになる。誰が経験値を稼いでもチーム全員に入る。相手チームにレベルが負けてる時はチーム全員が等しく負けてるので、レベル差のある集団戦は結構大変なものになる。
死ににくい緩やかなゲーム
HotSはワンショットキルが起きない。まあ、機動力の高いヒーローに延々と張り付かれて死ぬとか、メイジのスキルに掠っただけでとんでもないダメージを受けるってことはあるんだけども、自キャラが一瞬で蒸発するってとこまではいかない。これは数値の上昇じゃなくて挙動の変化ってのと繋がる部分もあるかもしれない。タンクは固くなるけど、メイジの成長はより広範囲に、より長射程になっていく傾向が強くて、高火力にはなっていかないから。あとはBLIZZARDの思慮深い数値調整の賜物なのか、基本的にすべての攻撃のダメージが低いのか、とにかく結構HPギリギリまで”粘れる”。死ぬときって本当に瀕死のところから1発もらって死ぬってケースが多い。さらにHotSのサポートヒーローはヒーラーが殆どで、どいつもこいつもソラカくらい体力回復してくる。基本的に死ににくい上にヒーラーがいるんだから、死なない。しかもクイックマッチ(LoLでいうノーマル)でもヒーラーが1人はマッチングするようになってるから、ヒーラーが居ないってこともない。死ににくいだけじゃなくて、死んでもゴールド差がつかないから、死んだら相手が強くなって更に死にやすくなるっていう状態にも陥らない。
直感的なマクロ
HotSのマクロはまあなんていうかわかりやすい。ジャングラーがいないし、ドラゴンやリフトヘラルドほど序盤から意識しなきゃいけないオブジェクトもない。そもそもマップによってはレーンが2つしか無かったりもする。じゃあHotSのマクロの根幹はなんなのかというと「経験値を取りこぼさないように、各レーンに最低でも1人は居るようにする」だ。あとはそれに加えて一定時間ごとに発生するマップイベントに参加すること。マップイベントは開始30秒前に「今からここに重要なオブジェクトが湧きますよ、集まらないと大変なことになりますよ」といった通知が出るので、よほどゲームについていくだけで精一杯の初心者でなければ、マップイベントに気づかないという事もない。マップごとに様々なマップイベントがあるけれど、どのマップイベントも基本的にみんな集合して集団戦をする形になって、マップイベントの勝敗が試合の勝利に向けて大きく影響するので、マップイベントを無視してスプリットプッシュするという行為はあまり得策にはならない。
ロールごとの役割もない。TOPはテレポート持ってるからサイドレーン押すとか、サポートだからワーディングしなきゃいけないとかもない。少しだけワードをおけるヒーローとか実質テレポートを使えるヒーローは居るけど、基本的には適当にウェーブクリアしつつマップイベントに合流して、集団戦で如何に腕前を見せるかだ。もちろんウェーブを押せば他のレーンからガンクが来たり、逆に押し切って暇になればこちらがガンクに動くことも出来る。ただ基本的に姿の見えないジャングラーがガンクに来るLoLと比べると、基本的には姿の見えてるレーナーがガンクに来るHotSの方がいくらか心持ちが楽だ。
HotSがどんなゲームなのかなんとなく伝わったところで、HotSの面白いところや問題点に入っていく。
到達容易なフルビルド
スマートなゲーム設計
スマートという言い方はずいぶんあやふやだが、あるいはしがらみが少ないとでも言えば良いのか、HotSをプレイしているとそのように感じることが多い。例えばダメージ計算を取り上げると、HotSは防御力が存在しないので書いてあるダメージがそのまま出る。一時的に防御力を得ることはあるが、例えばArmor25を得たら通常攻撃のダメージが25%軽減となるだけなので単純明快だ。ダメージの種類もスキルと通常攻撃の2種類という分け方で、魔法と物理が入り交じるLoLと比べると明示的だ。
マップが左右対称で、四角いマップを斜めにして利用してないからどっちサイドでも平等だとか、中立クリープごとに狩るとバフや視界のオマケがついてくるとかじゃなくて、どのクリープも狩るとレーンに出てプッシュするから一貫性があるとか、スマートだと感じる部分を上げたらキリがない。問題は、スマートであるが故に学習しなきゃいけない要素が少ないってことだ。膨大な数のアイテムを頭に入れるとか、調べないと分からない強いビルドとか、赤バフと青バフの防御力の違いとか、マッチングしたあとロールを宣言する奇怪な風習とか・・・とにかくLoLは難解だ。難解だからこそ、一つ知識を仕入れるだけで成長を実感できる。成長を実感できるとまたプレイしたくなる。
大きすぎる集団戦の価値
これは試合中ずっと集団戦しているという意味ではなくて、レーン戦含めた試合序盤と比べて集団戦の価値が大きすぎるということだ。死ににくいセーフティさに加えてラストヒットを取らなくていい気楽なレーン戦に対して、負けるとそのままオブジェクトを持って行かれてしまうマップイベント取り合いの集団戦。LoLを上手くなろうとしたらレーン戦を上手くなったり集団戦を上手くなったり、あるいはマクロを勉強してみたりと多方面からのアプローチが出来て、それぞれ同程度の効力を発揮すると思うけど、HotSを上手くなろうとしたら集団戦を上手くなるしかない。大量のスキルが飛び交う集団戦で適切な判断を行うのが得意なプレイヤーなら良いが、マクロの理解度で差を付けたい理論派のプレイヤーには辛い一面だ。
キャリーの難しいシステム
もう散々書いたけど、HotSはレベルがチームで共通だし、アイテムも無いから”育つ”という概念が薄い。一応、クエストというシステムでスキルを一定回数当てると強化されるなどの仕組みはあるんだけども、簡単にクエスト達成できて打ち止めになるものが多いから、過度に成長してスノーボールするという現象は起きない。LoLは自分が上手くやれればそれだけゴールドと経験値を稼げて、それが自分自身のステータスとして反映されていくわけだから育ってキャリーしやすい仕組みだ。HotSをキャリーしようとしたら、本当にチームに貢献したプレイをしなければならない。半強制的に集団戦が発生し続けるから、孤立した敵を狩っていくのも難しい。集団戦が多くてレベルも平等だからチームプレイしている感はとても強いけど、LoLのソロキャリーの気持ちよさっていうのは人を引きつける一つの魅力だと思う。
結論
HotSはエンターテイメント性が高いが、シンプルすぎてプレイが続かない。
LoLは複雑で難しいが、その分少しづつ覚えていくだけで成長を実感出来る。
以上、LoLと比較したHotSについて、主にプレイしたことはないけどどんなゲームか気になる程度のLoLプレイヤーに向けて。
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