虎は死して皮を留め、人は死して名を残すという言葉があるように名前というものはそのもののアイデンティテイを決定する重要な要素だ。特に最近ではゲームIP (Intellectual Property、知的財産権)が注目を集めており、単純な名前を超えてブランドとしての価値を持ち始めている。
ゲームの名前を変えて、やや低迷した雰囲気を一新し、新規プレイヤーを獲得できる可能性もあるが、これまでのゲームが積み重ねてきた実績を損なったり、既存のプレイヤーが離れる可能性もある。そのため、一度決められたゲームの名前を変えることはゲーム会社のからすると「諸刃の剣」になるのだ。
大規模アップデートとともに名前変更し、 使用率、売上が50倍まで上昇するした「ソウルアーク」
Bluestone Softがサービス中のソーシャルゲーム、「ソウルアーク」は今年八月に新規サーバー「ニューワールド」の追加とともにゲーム内の名前を「ソウルアーク:ニューワールド」に変更した。Bluestone Softは昨年10月にゲーム内でリブートと称したアップデートを行ったがサービス一周年時点では期待に応えられずユーザー離れを起こしたことがあった。しかし、今回の改名を伴う大型アップデートでは運営発表ではアップデート前に比べ売り上げ、接続者ともに50倍以上増加し、「単に新規サーバーを追加するだけでなく、ゲーム全般を改善したという意味で、ゲームの名前を新たに変えた」と述べている。
追加要素を強調するためのタイトル変更はほかにもある。DeNAがサービス中のモバイルゲーム「ポケモンマスターズ」も最近サービス1周年を記念した大規模アップデートを通じて、ゲームの名前を「ポケモンマスターズEX」に変更した。
ゲームのプロデューサーである佐々木悠は公式YouTubeチャンネルを通じて「これまでにない大規模なアップデートを行います。そのことを少しでも多くの方々に知ってほしい、新たな体験を味わっていただきたいという思いを込めてタイトルをポケモンマスターズEXに変更することを決定しました。」と伝えた。この変更は成功したといってよく、App Storeでのランキングも84位から13位に急上昇している。
また、大規模アップデートに加えブランドイメージを統一するためにゲームの名前を変更する場合もある。デウシスターズは今年7月にスマートフォン向けパズルゲーム「ハロー!ブレイブクッキーズ」のタイトルを大型アップデートに伴い「クッキーラン:パズルワールド」に変更した。デウシスターズ「クッキーランのIPの価値を高めるためにゲームの名前を変更した」と伝えている。
(クッキーランは2013年にシスターズが開発したタイトルで様々な商品展開がされている。同社が以降にリリースしたタイトルにはクッキーランという名前を加えてIPの影響力を強化するという計画である。)
大型アップデートまであと少し❗️
今日は #ハロブレ の新規タイトル名を公開致します????
シーズン2アップデート時に「ハロー!ブレイブクッキーズ」から「クッキーラン:パズルワールド」にタイトル名を変更いたします????????♂️????????
近日実施予定のシーズン2アプデ!ご期待ください‼️ pic.twitter.com/AyNS166agf— クッキーラン:パズルワールド (@CRPuzzleWorldJP) July 27, 2020
このようにゲーム会社はゲームの名前を変えて、大規模アップデートとともにタイトルでアイデンティティを表現し、低迷期のゲームの雰囲気を喚起しようという動きがあるが、大切な部分を変えていないと逆効果をもたらす事例もある。
名称変更の失敗 H1Z1
ゲームの名前は変わったが確信的な部分が変わらず、タイトル変更として代表的な事例に「H1Z1」がある。登場した当時、「H1Z1:Just Survive」という名前のゾンビサバイバルゲームだった。その後追加されたバトルロワイアルモードが人気を集め、「H1Z1:King of the Kill」とタイトルを付けられ独立したゲームとしてリリースされた。
分割されたゲーム、両方のクオリティを高めるというのが開発の計画だったが、特にゲーム性は変わらずプレイヤーが離れ始めたころに「PUBG」が登場し「H1Z1」への関心は急速に冷めていった。その後バトルロワイアルモードの名前が「Z1 Battle Royale」に変更された後もゲーム性に変わりはなく今は忘れ去られたゲームになってしまった。
ただ失敗するだけなら我々プレイヤーにはあまり関係ないが、ゲームの問題を隠し再リリースするためにタイトルを変更することもある。中華量産ゲームによくある看板だけ変えるといったものである。実際に遊んだプレイヤーは「新作ゲームとしてダウンロードをしたが過去にサービスを終了したゲームのアセットとシステムをそのままのようなゲームだった」とのレビューがある。(一部はAsset Flipsと呼ばれる行為でSteamに多く見受けられる。)
ほかにも無断でIPを盗用しタイトルのみ変更することでプラットフォームの監視を避けるなど、タイトル変更によっておきる効果を悪用事例も起きている。
このように長期的なサービスを行うゲームにとってタイトルを変更することは雰囲気を変え、プレイヤーの注目を集める良い方法だが、単純にタイトルを変更するだけではこうした目論見はうまくいかない。大規模アップデート、さまざまな問題の改善などによって地盤を整え、ゲームタイトルを変更することでよい相乗効果をだすということがここまでの事例を介してわかる教訓だろう。
Blueholeが開発中のオンラインMMORPG「ELION」
一方正式発表はされていないがタイトルを変更しつつ飛躍を模索するゲームもある。スチームパンク感のある空中戦を売りとしたBlueholeが開発中のオンラインMMORPG「ELION」は本来「A:IR」というタイトルがつけられていたが、行われたテストでは目玉の空中戦コンテンツが酷評を受け空中戦を改善しタイトルの変更も行った。
開発は「ノンターゲットの戦闘システムを適用し、装置システム、スキルカスタマイズなどゲーム全般の内容を変更した」とし、「大幅な変更に合わせてゲーム内に広がる世界でプレイヤーが行くポータルの名前である“エリオン”に変更することとなった」と伝えている。韓国で提供を行うカカオゲームズは2020年下半期でリリースを正式発表するといわれており、日本での発表も待たれている。
ゲーム市場が成熟期に入ってIPの価値が高まり、各ゲーム会社は、今後10年を備えることができるブランドを構築するために努力している。特にIPの中心となるゲームの名前は、単なる名称ではなく、ゲーム会社の将来を決めることもできる力を持っている。これまで以上にゲームの名前が持つ力が期待される状況であり、タイトルを変更してでも新たな飛躍を模索している各ゲームの今後の成長を見守る必要があるだろう。
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